「A Simple Plan」 (邦題「シンプル・プラン」)

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■「A Simple Plan」 Scott Smith(邦題「シンプル・プラン」)を読みました。実は、邦訳が出た直後に、日本語で読んでいますので、およそ20年ぶりでの英語再読となります。「再読しよう」と思うぐらい、面白かった記憶があったので再び手にとった次第。

■ハンクは、妻のサラ(最初の子を妊娠中)と一緒にオハイオ州の郊外に暮らしています。ハンクは、ある年末の午後、兄のジェイコブとジェイコブの友人ロウと共に、両親の墓参りに出かけます。その道中、3人は墜落した小型飛行機を偶然見つけます。その飛行機の中には、400万ドルを超える現金の入ったダッフルバッグと操縦者の遺体がありました。「6か月待って、この金を探している人がいないことがはっきりしたら、3人で山分けしよう」。3人が立てたのは、この単純な計画でした。ところがこの計画を発端に、多くの人の人生が狂っていきます。

■話の筋立ては、さほど複雑でもなく、まさにシンプルです。が、恐ろしくてページをめくる手がとまらなくなります。最初にこの本を読んだ20年前「どんなに普通の人でも、お金のためなら何でもできるんだなあ」という、小学生のように「シンプルな」感想を当然のように抱きました。しかし「この本の真髄はそこじゃない」という、黒くて重いしこりが残ったのです。だから再読しようと思ったのかもしれません。当時は言葉にできませんでした。それが何かわかったので、言葉にしてみます。

■ハンクとジェイコブが住んでいるのは、典型的なアメリカの郊外です。自分が生まれ育った郊外。どこに行っても知り合いに出会い、同級生を見かける。成功した奴らはみんなここから出て行ってしまった。残っているのは自分や兄のような者たちだけ。ここから出たい。死ぬほど出ていきたい。ここに生きている理由がわからない。どこか遠くへ行きたい。金さえあればそれができるはず……ハンクと妻サラの、焼けるような焦燥感と痛み。初読当時、私はもう東京で生活していましたが、この気持ちがわかりすぎて目をそむけたくなるほどでした。

■読んでいけば、賢明な読者にはすぐわかると思うのですが、ハンクもサラも金があっても絶対に幸福にはなれません。彼らにとって「金」というのは「ここから出ていくための夢のチケット」でした。「ここではないどこかへいくための夢のチケット」だったのです。ところが、兄のジェイコブは「チケット」を「ここに残るために」使おうとするのです。ハンクが出ていきたくてたまらない故郷。どんづまりの共同体に、兄はどうしても留まりたいと言い張るのです…。

シンプル・プランは、「共同体で生きていく意味」が、自明ではなくなった社会に生きる人々の苦悩と混乱を、サイコホラーに仕立て上げた傑作です。この意味でこの話は、奥田英朗「無理」(初出2009年)と中心点をほぼ共にします。「シンプル・プラン」は初出1993年、翻訳は1994年です。

■ちなみに、ではもしハンクとサラが大金持ちになって、大都会で生活していたら……? その答えが「アメリカンサイコ」(初出1991 翻訳1995)です。

■これと同心円のテーマ「私たちに未来はない。私たちはどこへも行けない」というディストピアは、日本では1980年代半ばに既に俎上に上っています。大友克洋AKIRA1984年に連載が始まり、うる星やつらビューティフルドリーマーは、1986年でした。時はバブルの真っ最中、日本のサブカルチャーがここまで見通していたというのは、これまた非常に興味深いことです。