「LEAN IN リーン・イン」

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LEAN IN リーン・イン シェリル・サンドバーグ

「まぁ、そうだよね」という良く出来た本です。「全米大炎上」というキャッチがついていたりしますが、大炎上するほどセンセーショナルな内容は一つもありません。特に新しい内容も一つもありません。「仕事をしている女の人は、みんな感じること」が、全米で最も有名なキャリア女性の一人であるサンドバーグさんによって語られている、というところでしょうか。

ただ「この本は、一定の階層以上の女性に向けて書かれているよね」というのは、仕方が無いことですが強く感じます。「働く女性」と一言でいっても、「ヨイトマケ」に出てくるような「エンヤコリャ」のカーチャンもいれば、外資系コンサルで働く独女までいるわけで、この本は明らかに後者向けです(「後者のような傾向をもつ女性」という意味です)。サンドバーグさんの目には「カーチャン」はまったく見えていないと思いますので(まぁ、当然といえば当然ですが)、いかにも「アメリカン・フェミニズム」の典型のような本です。簡単にいうと「勝て、成功しろ」という強者志向へと動機付けられる人のための本です。

私は負け組みですし、「人は弱い」ということを素直に認めて生きたいと思うし、「弱さ」を受け容れずして人間社会の何が「人間か」と思っておりますので、こういう本はあまり評価できません。というのが率直な感想です。

サンドバーグさんは「人生踏み外さず」生きてきて成功した人です。能力もとても高い方でしょうし、超人的な努力もされてきているでしょうから、そこは素直に尊敬に値すると思います。子どもの頃から「世界を変えたい」と思っていたそうですが、そもそも「高い能力があって、人生踏み外さない」人に「世界を変えたい」と思う動機って、無いんですよね。なぜなら、そういう人たちにとって「世界は常にワンダフル」ですから。目をキラキラさせて「人の役に立ちたいんです」というお金持ちのご子息・ご令嬢がおりますが、そういう感じだったのでしょう、多分。それが、キャリア・マラソンを走るうちに「性差別」という、初めて出会う理不尽な障壁にぶち当たります。そこで初めて、ご自身の中で「世界を変え」るための、個人的で、だからこそ強力な「動機」ができたのだと思います。

もう一つ、強く疑問を抱いた点を挙げておきます。そもそも、資本主義近代社会というのは、市場で労働を担う「生産」の領域と、次世代の労働者を生み育てる「再生産」の領域を、分割することで発展してきています。「出産・育児」という再生産労働を、市場から隔離することで、市場を効率化しているというわけです。サンドバーグさんの主張は「出産や育児は、生産性を落とさない」という前提になっています。ですが、もしそれが真実であるのなら、そもそも「なぜ、再生産労働の分離がおこり、それが継続されているのか」を論理的に解明する必要があります。

ちなみに、私は「出産や育児は生産性を落とすに決まってる」と思ってますので、そこを認めないと、出発点にすら立てないんじゃないかと。

子どもを預けて仕事に復帰するのは、誰にとっても厳しい選択である。私自身もそうだが、この選択をした親は誰でも、それがどれほど心痛むことかを身に沁みて知っているだろう。自分が夢中になれる仕事、やり甲斐のある実り多い仕事に打ち込むことだけが、その選択の正しさを自分に納得させてくれる。(ボールド部分は引用者)

上は、本書の146ページからの引用です。いったいぜんたい、世の中のどれほどの働く母が「やり甲斐のある実り多い仕事」をしているというのだろう? 働く母でなくとも、いったいどれほどの人が「やり甲斐のある実り多い仕事」をしていると、サンドバーグさんは思っているのだろう? と私は思わずにはいられないのです。そして、「じゃあ、『やり甲斐のある実り多い仕事』をしていない働く母は、正しくない選択をしてる、ってこと?」という疑問は当然沸いて出るわけで。こういうことをシレっと素直に主張できてしまう「天真爛漫さ」が、いかにもアメリカの上流階級だなーと思わずにはいられないのでした。