コンテンツ「世代の隔絶」

私が小学生の頃には、まだCDが一般に発売されていませんでした。音楽を聴くには、レコードかカセットテープでした。レコードは、繰り返し再生すると原盤が痛むので、カセットテープに録音して聴いていました。レンタルレコード屋さんから借りてきて、カセットテープにダビングすることも、当時は皆ふつうにやっていました。


ある時、同じクラスの男の子が、彼のものすごく好きな曲を60分のカセットテープの全てに録音していました。つまり、同じ曲を何度も連続して繰り返し聴きたいので、その1曲だけをレコードから繰り返してカセットテープに録音したのです。そうすれば、エンドレスで同じ曲だけを60分間聴き続けられるというわけ。
「おまえは、そんな曲がそこまで好きなのかよ」
と友だちの笑いものにされていましたが、私はこのエピソードを忘れることができません。


今はCDどころかmp3プレイヤーが普通ですから、同じ曲を繰り返して聴くことなど造作もありません。ですが当時は、レコードだったら「針を上げてもう一度溝を狙って落とす」という行動をいちいちしなければならないし、カセットテープだったら、巻き戻す時間を待っていなければならなかったのです。


レコードやカセットテープの頃は、1枚のアルバムの中から「その曲だけ」を聴く、ということが難しい時代でした。好きな曲をアルバムから1曲だけ何度も聴きたい場合には、少々イライラしながら「その曲の頭出し」を待つしか方法がなかったのです。必然的に「アルバム全部」を聴く機会は、今よりずっと多かったと思います。


音楽の聴き方はCDが登場することで劇的に変わりました。


VHSビデオテープが一般に普及したのも、1980年代に入ってからです。それまでは「動画を何度も再生して楽しむ」ということは一般人には不可能なことでした。
仕方が無いので、アニメだったら「アニメ・コミック」というものがあって、アニメの動画をコマ割のマンガにして吹き出しを付けて、マンガ本として売っていました。また「ドラマ編」というレコードを売っていて、アニメ映画の「音だけ」がレコードになっていたのです。今考えると、ホントわけわかりませんが。
足りない部分(マンガなら音声、ドラマ編レコードなら映像)は、想像で補っていたわけです。涙ぐましいですね。


そういう時代が、わずか約25年前でした。


今、私の子どもはyoutubeやDVDをふつうに見ているので、動画でも「見たい瞬間を何度も繰り返してみる」ことは当たり前になっています。
子どもとテレビを見ていて「ママ、今のアンパンマンが落ちるところをもう一回やってよ」とか言われて「いや、これはテレビだからできないんだよ」と言っても「なんでよ、やってよやってよ」と泣かれて困るのです。


「世代の隔絶」ということが言われて久しいですが、戦後数十年の変化の大きさ、とくにデジタルコンテンツが登場してからの変化のものすごさは「人そのものを変えている」んじゃないか、という気がしています。
音楽や映像のコンテンツの享受の仕方も、そこに期待するものも、多分、世代によって全然違うことでしょう。